5、遺書(遺言)があったら。(後編)
「5 遺書(遺言)があったら。(前編)」の続きです。
何等かの事情で、被相続人が、「法定相続人ではない長男の妻に遺産を全て渡す」と書いた遺言を残していたとしたら、法定相続人である、妻、長男・長女は、どうすれば良いのでしょうか。
※今回の相続関係図です。
前編で述べたとおり、法定相続人には遺留分という法律で決められた一定の相続権があります。
ここで、もう一度「遺留分」についておさらいしておきましょう。
「遺留分」とは、一定の相続人のために,相続に際して,法律上取得することを保障されている相続財産の一定の割合のことで,被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものです。
つまり、法定相続人の「最低限の取り分」のことが「遺留分」です。
遺留分減殺請求
本題に戻ります。
遺言のとおり、法定相続人でない長男の妻に遺産を全て渡すとしたら、法定相続人である妻・長女・長男の遺留分(遺産の2分の1)を、明らかに侵害しています。
つまり、今回のケースだと、妻、長男・長女は、長男の妻に遺産が全て渡ることがないよう、自分たちが受け取れる遺留分を主張することができます。
この遺留分の侵害額を請求することが「遺留分減殺請求」です。
では、どのような手続きを行えば良いのでしょうか。
遺留分を受け取るためには、最初は、遺留分権者(今回は、妻、長男・長女)と相手方(長男の妻)の間で、交渉するのが通常です。
そこで、今回のケースでは、長男の妻に対して、何等かの形で「遺留分減殺請求」の通知を行うことになります。
(もし、遺言執行者がいる場合には、執行者に対しても通知する必要があります。)
但し、「遺留分減殺請求」の時効は、以下の通りですので、注意が必要です。
【遺留分減殺請求の時効】
・相続開始及び減殺すべき贈与又は遺贈のあったことを知ったときから1年
・もしくは遺留分侵害があることを知らなかった場合、相続開始の時から10年
この通知は、長男の妻に対して、意思表示をもってすれば足りますが、口頭のみで行うよりも、配達証明付きの内容証明郵便等記録に残る形で意思表示を行っておくほうが安心です。
請求の通知を行った後、話し合いで解決できれば問題ありませんが、解決できなかった場合はどうすれば良いのでしょうか。
一般的には、まず、家庭裁判所に「遺留分減殺請求の物件返還請求調停」の申立を行います。
調停でも合意ができず、不成立となった場合には、訴訟提起を行うことになりますので、その間にかかる時間と労力、お金が必要となります。
今回のケースでは、遺言が有効なものであり、かつ、法律で決められた通りに財産を分けることで話がまとまった場合、法定相続人の遺留分である遺産全体の2分の1を法定相続人が受け取るとしても、残りの2分の1は、遺言に従って長男の妻が遺産を受け取ることになり、「この相続問題は解決した」ことになります。
争族を生まないために
なぜ、被相続人はこのような遺言を残したのでしょうか。
遺された遺族は、理由を知りたいと思うはずです。
また、相続の発生により、各相続人の根底にあった被相続人や家族に対する想い、特に不満や不安、嫉妬や誤解が、いきなり表面化することも多々あります。
だからこそ、その理由を何らかの形で残しておくことは、とても大切なことです。
(被相続人の想いは付言事項として遺言に書き記す事もできます。)
想いの遺し方に絶対的な正解はありません。
ですが、もし、何等か特別な想いがあるのであれば、遺言やエンディングノートなどに遺しておくことによって、残された遺族はその想いに触れることができます。
被相続人の想いに触れることで、残された遺族は、争う気持ちを和らげることができることもあるはずです。
(エンディングノートとは、遺言のように法的な効力はありませんが、自分の死に備えて自分自身の希望を書き記しておくものです。)
被相続人は、遺族がそのような感情や欲望をぶつけ合わずに、被相続人を偲び、財産を仲良く分けて、それぞれの人生を歩んでほしいと願うのであれば、やはり、亡くなる前にその意思を明確に遺すべきであるし、その遺し方においては、全ての相続人に配慮して欲しい、と私たちは思います。
いま、このコラムを読んでくださっているあなたにとっても、「争続」は対岸の火事ではありません。
「争続」の火種は、身近に潜んでいます。
私たちは、多くの「争続」の現場に立ち会い、精神的に疲弊する方々を数多く見てきました。
だからこそ、争続によって、遺族の被相続人に対する怒りや憎しみが生まれることを、そして残された遺族同士の間に修復できない溝ができてしまうことを防ぎたい、と切に願っています。
誰しも、いずれは誰かを遺して亡くなります。
誰しも、大切なひとを亡くせば遺族になります。
自分の死後、悲しい争いを生まないために、そして、大切なひとが亡くなった後、気持ちよく被相続人を見送ることができるように、お互いに何等かの準備をしておくことは、とても大切なことではないでしょうか。
そのために、遺言やエンディングノートなどを活用し、自分の想いを形にしておくこと、また、あなたの大切なひとにも想いを遺して欲しい、と伝えること、一緒に考えることを、ぜひ検討していただきたいと思います。
(参考までに記しておきますが、15歳以上であれば、法律的に有効な遺言を遺すことができます。)
さて、相続財産といえば、預金や不動産など、プラスの財産=受け取れるものに、気持ちと考えが向かいがちです。
ですが、相続財産にはマイナスの財産=払わなければいけないものも含まれます。
その代表的なものが借金です。
次回は、被相続人(故人)に借金があったらどうするのか、を考えてみたいと思います。
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